2021.02.26専門家に聞く
鈴木貴達さん(株式会社おとも)

2021年1月8日に、弊社社員が、株式会社おとも代表取締役の鈴木貴達(すずき・たかみち)さんにインタビューをおこないました。視覚障害のある方々は外出においてどのような問題に直面するのか、それに対してドコケアはどのように力になれるか、鈴木さんの専門的知見を伺います。

起業の経緯

――貴社の立ち上げの想いと事業内容を教えてください。

私はもともと別の業界で働いていました。同行援護は、福祉のなかでもマイナーです。母が視覚障害者ですが、家族である自分も同行援護を知りませんでした。偶然知る機会があり、母に関係のあることなので、自分でも調べてみたところ、視覚障害者支援の人材不足を知りました。これが事業を立ち上げたきっかけです。

事業内容は、同行援護という視覚障害者の外出に伴う支援と、情報提供を行っています。同行援護はいわゆる目の代わりをする仕事です。余暇活動に使える支援なので、買い物や通院や散歩や、今はコロナで行けませんがコンサートなど、そういった外出に使っていただける制度です。

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視覚障害者の外出の課題

――視覚障害者の外出の課題について、コロナ禍による変化も踏まえて教えてください。

視覚障害者の外出には選択肢がいくつかあります。大きく分けると、単独の外出と、誰かに同行してもらう外出、その中間が盲導犬を連れた外出です。単独の外出は、さらに、自己流で白杖を持って歩くものと、歩行訓練士または自治体による訓練を受けて外出するものに分かれます。歩行訓練士というのは、視覚障害者の歩行訓練を行う専門家です。他方で、誰かに同行してもらう外出は、家族や友人が介助者となる場合もあれば、国の支援により同行援護を受ける場合もあります。

同行援護の実際の利用者数は少ないです。日本には視覚障害者が31万人いますが、そのうち2万人しか利用していません。同行援護を使わない人のなかには、単独歩行が可能な人だけでなく、同行援護を使いたいけど使えない人や、そもそも同行援護を知らない人もいます。視覚障害は情報障害でもあり、必要な情報が視覚障害者自身に行き渡らないことがあります。同行援護の情報も例外ではありません。

――社会的バリアや、それに関連する当事者の心理的・身体的負担感はどのようなものがあるのでしょうか。

心理的な課題としては、誰かに同行を頼むのは気を遣います。特に今はコロナで、ヘルパーにも友人にも頼みづらいようです。私の事業所にも「申し訳ないから出かけるのを控えます」という声が寄せられました。

身体的な課題としては、単独で歩行する人は環境の変化に弱いです。慣れないうちは、より時間がかかります。また、視覚障害者にとっては、見ることとは触ることですが、今はコロナですので、まわりをペタペタ触ることは憚られるようです。

これまでだと、とくに全盲でなく弱視(ロービジョン)の方であれば、慣れたスーパーなら一人で行くことができました。しかし、品物を手に取り顔に近づけて値段を確認することが、今は難しくなりました。店員に聞くことも遠慮してしまいます。さらに、検温の設備も、消毒液の場所も分かりません。そして、ソーシャル・ディスタンシングのために足元にあるステッカーに気付きません。周りの人の声掛けが必要です。

――歩行訓練士は、日本にどれくらいいらっしゃるのでしょうか。また、視覚障害者が望めばすべての人に歩行訓練が実施される環境は、整っているのでしょうか。

歩行訓練士は結構少ないです。歩行訓練士は、国家資格でこそないですが、取得に2–3年かかる難しい資格です。その反面、その資格が必須の職場が多くあるわけでもなく、取得者は少ないです。また、視覚障害者でさえ、歩行訓練士から訓練を受けられることを知らない人が多いです。

訓練場所も、都内に2~3か所しかなく、歩行訓練士も数名です。有償の訓練もあれば、東京都からの補助により無償で受講できる場所もあります。

――では、視覚障害者でも実際に訓練を受けている方は少ないのでしょうか。

私の事業所の利用者でも、1割か2割です。歩行訓練はそもそも一人で歩きたい方が受けますので、普段から同行援護を利用する方はあまり受講しないのかもしれません。

白状を持って単独で外出されている方でも、歩行訓練は受けていない方がほとんどだと思います。各自治体で講習を受けている方もいるかもしれませんが。視覚障害者といっても、9割は見えづらい〔弱視の〕方ですので、あまり必要だと思われていないのかもしれません。

――身体的負担について伺います。慣れない道や足元の悪い道はもちろんですが、初めて単独で訪れる場所も負担が大きいのでしょうか。

新しい土地に行くのは一般に大変です。とくに全盲の方だとかなり難しいです。地図を見ながらの歩行もできなければ、周囲の様子も分かりません。引っ越し後には、慣れるまでヘルパーと練り歩いて練習します。

昨今のニュースについて

――昨今、無人駅での転落事故や鉄道会社への訴訟などのニュースが注目されています。柵やホームドアの未設置や段差などの、字義通りの「バリア」は当然ながら問題ですが、視覚障害者の外出時に必要な配慮等につき、加えてさらに我々が理解しておくべきことがあれば、教えてください。

現状でも、改札口でお願いすれば、駅員介助を頼ることができます。ただし、駅員介助には時間がかかりますから、慣れた場所であれば一人で乗ってしまう方も多いです。しかし、私は、視覚障害者にも、自衛のためには歩行訓練を受けてほしいと思います。安全に歩行するための訓練ですから、電車に乗る際の事故も減ると思います。

そして、言うまでもなく、周りの人の配慮が大切です。具体的には見守りと声掛けですね。困っていそうであれば、「お手伝いできることはありませんか」と声をかけていただきたいです。本当に危なければ腕をつかんで止めてください。視覚障害者にとって、電車とホームの間に落ちたとか、ドアに挟まったとかいうのは、結構多い話です。コロナ禍による外出自粛や、ソーシャル・ディスタンシングもありますが、必要に応じて声掛けをお願いします。駅が危険な場所だという理解のもと、当事者も気を付ける必要がありますし、周りの人も見守りや声掛けを意識して行えたらいいですね。

――弊社でも、介助や支援をこれから勉強しようとする方々に向けた教育コンテンツを発信しています。具体的にどのように声掛けをすれば良いのか教えていただきたいです。

「なにかお手伝いすることありますか?」というのがよいですね。「大丈夫ですか?」と聞くと、みな「大丈夫です」と言ってしまいます。また、「そっち危ない!」「こっちのほうが良い!」などは、本人にとって必要でないこともあります。急に掴まれて力任せに移動させられるのが怖いとか、白杖を持たれるのが怖いといった声もあります。とはいえ、危ないときは掴んで知らせていただきたいです。

――本当に必要だと思い声をかけても、「余計なお世話」や子ども扱いとして受け止められる場合もあるでしょう。そういった場合にはどうすればよいでしょうか。

確かに、声をかけると冷たくあしらわれることがあります。怒られることもあります。しかし、障害の有無にかかわらずいろいろな人がいるので、そういった対応をされても凹まないでほしいです。

――最近では、バリアフリーの一環で、駅のホームでのアナウンスが強化されています。音を重要な情報源とする視覚障害者にとって、むしろ雑音が増えて利用しづらくなることはないのでしょうか?

今の程度であれば邪魔にならないとは思います。また、あのようなアナウンスは、当事者だけではなく周囲の人への注意喚起としての役割もあります。アナウンスによって、周囲の人も意識するようになります。

ただし、電車が反対側に来たのか自分側に来たのかを音で判断できず、線路に転落してしまうことも多いようです。音が邪魔になって転落リスクが上がる可能性も実際にはあるかもしれません。

――鉄道会社等はどのくらい当事者の意見を聴く機会があるのでしょうか。実情を教えていただきたいです。

最近、東京メトロでは、点字ブロックにスマホアプリをかざして道案内をするシステムができました。そういったものには当事者団体も様々な形で関わっていると思います。

とはいえ、「当事者の声」も多種多様なので、どこの意見を拾って決めていくかは課題です。たとえば、大々的な活動には、当事者のなかでも比較的年配の方が行くのですが、若い人は別の視点をもっているでしょう。また、若い方はスマホを使って近くの支援者を探すことができますが、高齢の方はそうしたサービスを使えないため、「意味がない」と思う方もいます。

そして、上記のようなヒアリングこそ行っていても、どこまで反映しているかは分からないところです。点字ブロックをおしゃれなグレーにするというのは、当事者の意見が反映されていない一例です。

公的サービスの課題

――公的サービスとしてみたとき、同行援護の課題はあるでしょうか。

課題は多いです。まず、同行援護の利用時間は自治体ごとに決められており、月あたり平均50時間ほどで、非常に短いです。自治体によっては12時間のところさえあります。予算の都合があるとはいえ、時間数が足りないという方は多いです。

加えて、使える条件の制約が多いのも課題です。同行援護は余暇活動にだけ使える支援なので、通勤通学などの経済活動に関わる部分は使えません。単独での電車通勤が怖いので就職できないという方もいらっしゃいます。

また、冒頭にもお話したとおり、同行援護の認知不足という問題もあります。人手も足らず、60~70代のヘルパーでさえ現役だというのが実情です。特に、今のコロナ禍で、重症化リスクが高い「現役世代の」ヘルパーの引退が進んでしまい、人手不足が加速しています。人手不足の別の要因としては、同行援護は余暇活動支援であることから仕事として安定しないということも挙げられます。常勤職員の割合も、一般的な訪問看護・介護事業所の半分(職員全体の15%ほど)しかありません。安定しないので、そもそも同行援護に力を入れている事業所も少ないです。

細かい課題としては、同行援護は支援が決定するまでに時間を要するので、直近の依頼に対応しづらいです。非常勤職員が多く、依頼があっても急だと予定が合わないことも多いです。余暇活動の外出ですから、突発的な依頼にも対応できるのが本当はベストです。

利用者側の心理的なハードルも課題です。同行援護を依頼するにはわざわざ電話しないといけないし、どんな人が来るか分からないという不安があります。どこに出かけるか、何をするかと同じくらい、誰と出かけるかは重要ですから。また、地元でヘルパーを見つけられても、旅行先で見つけられないという話があります。

――現状、視覚障害者への認知はどのようにおこなっているのでしょうか。利用者は、どのようにして同行援護を知り、利用に至るのでしょうか。

多くの場合には、視覚障害者コミュニティでの当事者からの口コミですね。また、障害者手帳を持つと、各自治体から「障害者のしおり」という冊子をもらえます。そこに障害者に向けた様々な支援が書かれています。最近では、冊子に音声コードがついていて、バーコードを読み取ると読み上げてくれるようなものもあるようです。

――主な情報源がコミュニティということでしたが、御社サービスのご利用者は比較的若い年代の方が多いのでしょうか。

50代以上の方の利用が多いです。前提として、視覚障害者の8割以上が60代以上です。一般的に加齢とともに視覚に関するリスクも上がりますから。

加えて、若い視覚障害者と話をすると、「同行援護って、おじいちゃん・おばあちゃんが使うサービスじゃないの?」と言われることもあります。ヘルパーには60~70代の人が多く、20代の人にとっては、自分のおばあちゃんくらいの人が支援に来ることになります。しかし、たとえば若い女性が洋服を買いに行くときには、自分と同じ年代の女性と一緒に出掛けたいですよね。それは視覚障害者でも同じことです。

もちろん、ヘルパーとの年齢差が常に悪いわけではありません。しかし、若い方が利用しない理由のひとつに、年齢があるのかもしれません。私の事業所はヘルパーの平均年齢が40代ですが、それでもかなり若いと言われる業界です。

必要なサービス

――現存する公的サービスの課題を踏まえ、当事者目線で今後必要となるサービスはどのようなものだと思われますか。

人材の確保が大きな課題です。コロナの影響で、ヘルパーの主力であった世代が引退し、既存の事業所の撤退も進んでいます。それにより、弊社でも新規の利用者の問い合わせが増えています。

利便性については、直近の依頼ができたり、自分と相性の良い人を選べたり、そういったことが望ましいですね。

ドコケアに関しては、現状では、視覚障害者に対してアクセシビリティ対応ができているとはいえません。視覚障害者がひとりで操作できるアプリであれば、喜ばれると思います。電話を通じての代理入力も一つの案です。将来的には、旅行先で介助者の検索ができると便利ですね。

障害者差別解消法への対応

――障害者差別解消法に定められる合理的配慮について伺います。企業や事業者にとっては、合理的配慮の重要性をわかっていても何をしたらいいかわからない場合が多々あると思われます。視覚障害者に関連して企業や事業者に求められることは何でしょうか。

一番は盲導犬への理解です。飲食店には盲導犬禁止のお店が多いです。国からも盲導犬を認めるよう指示が出されていますが、それでも依然として多いですね。

たしかに、お客さんの中には犬が嫌いな人もいるかもしれません。しかし、盲導犬は訓練されていますので、理解がもっと広がると嬉しいです。

――企業や事業者の善意が空回りしないために、当事者にとって本当に意味のある合理的配慮が何なのか、ご意見を伺いたいです。

最初から「視覚障害とはこういうものだ」「見えないから何もできない」とラベリングしないことが重要です。視覚障害者といっても、見え方の種類や程度は様々ですし、もちろん性格や考え方は多種多様です。

仕事でも同様で、「視覚障害者はパソコンなんて使えないだろう」と思う方がいるかもしれませんが、最近では音声読み上げ機能を使ってパソコンを使いこなす方が大勢います。まずは当事者理解から第一歩を踏み出してほしいです。

そうは言っても、「見えない/見えにくい」というのは共通です。説明時には口頭で具体的にご案内するというような基本的な知識は、皆さんに持っておいてほしいですね。